2022.03.30
啓発共有委員会
市場動向調査プロジェクト
2021年のインターネット広告市場の動向やトレンドについて、ヒアリングによる調査を実施し、インサイトレポート「2021年-2022年 インターネット広告市場動向レポート」を取りまとめました。
本レポートをJIAA会員限定で配付いたしますので、会員各社のビジネスの参考としてご活用ください。
<調査概要>
◇調査テーマ
※テーマは実施ごとに検討を行い設定している。
◇調査概要・方法
- 調査時期:2021年12月20日~2022年1月18日
- 調査方法:ヒアリング調査
- 調査対象者:JIAA会員13社(+部分ヒアリング3社)*
* 媒体社(コンテンツメディア、プラットフォーム)、広告会社(総合、ネット専業)、調査・測定会社等の業種より代表的な企業を選定
- 調査対象期間:2021年1月~ヒアリング時
- 調査委託先 :日経広告研究所
<2021年-2022年 インターネット広告市場動向レポート>
サマリー
「成長とともに自律へ進むインターネット広告」
- 2021年においても新たな変異株の発生によって、新型コロナウイルス感染症は周期的にかつ爆発的に拡大した。先行きの不透明感が拭えない中でも社会・経済活動のデジタル化は加速を続けた。その一方でインターネット上での消費者被害や不正取引も増加し、防止に向けた取り組みが官民で広がった。
- 電通の「2021年日本の広告費」によれば、インターネット広告費は、企業の広告マーケティング活動のデジタル化を追い風に2兆7,052億円(前年比121.4%)となった。インターネット広告市場全体としては新型コロナウイルス感染症の流行状況の影響は少なく、マスコミ四媒体広告費を初めて上回った。
- 企業活動のデジタルトランスフォーメーションによって、広告ビジネス自体も変化している。ECプラットフォームが広告媒体としてさらに注目が高まり、顧客データをもとに広告ビジネスに参入する流通・サービス企業が相次いでいる。マスメディア企業の中には、自社でPMP運用を開始し、コンテンツのプレミアム性に加えて販売力の強化を目指す動きも出てきている。一方高度化、複雑化する広告業務に対する現場の負担、コストの増大をどのように解決していくかが課題となっている。
- インターネット動画視聴が一般化する中で、2021年も動画広告は引き続き市場を牽引し、市場規模は5,000億円を突破した。テレビCMとインターネット動画広告のプランニングの一体化が更に進んでいる。インターネットに接続したテレビデバイスであるコネクテッドTVが広告媒体として注目を集めており、広告プランニングのベースとなるデータ基盤の整備が求められている。
- 2022年4月に改正個人情報保護法が施行され、インターネット閲覧情報の取り扱いが法的に規定される。Googleはサードパーティクッキーのサポート停止を2023年に延期すると発表、AppleはiOS14.5以降、個人データの広告利用の明示的許諾を義務化した。現状ではルールに則って許諾されたファーストパーティデータの活用が主流になるとの見方が多い。
- JIAA会員社では、個人情報保護や広告品質向上への取り組みは、2兆円規模の産業となったインターネット広告が発展していくための機会と捉え、コンプライアンス意識が深まっている。インターネット広告は広告マーケティング活動の中核を担う立場にあり、社会の信頼を得て健全に発展していくために「自立」から「自律」のステージに立っている。
1. 2021年のインターネット広告を取り巻く社会経済の動き
1.1. さらに加速したデジタルシフト
2019年末から全世界に蔓延している新型コロナウイルス感染症は、2021年も新たな変異株の発生によって周期的にかつ爆発的に拡大し、今なお世界の社会・経済活動に大きな影響を与え続けている。貯蓄性向の高い日本では、欧米に比べて個人消費は低調、内需の回復への足取りは重い。現時点で2021年の実質GDPはプラス1.6%程度とみられ、コロナ禍以前の水準を取り戻せていない。飲食、旅行・宿泊、体験型エンターテインメントなどの業種では依然として厳しいビジネス環境が続いている。また、世界的な物流の停滞と半導体の不足によってサプライチェーンが混乱し、自動車やPCなどの製品供給が逼迫していることも広告出稿には下方圧力となっている。
先行きの不透明感が今なお拭えない中でも、全世界で社会・経済活動のデジタルシフトは確実に進みつつある。イスラエルの歴史学者ユヴァル・ハラリ氏は「今日では多くの人がリアルとバーチャル(仮想)という2つの世界で暮らしている。新型コロナがリアルの世界に広がると、多くの人は日常生活の大半をウイルスが付いて来られないバーチャルの世界に移した」と述べている。私たちの日々の生活、仕事に起きている様々な変化は不可逆的に進んでいることが実感された1年であり、この変化はインターネット広告にも大きな影響を与え続けている。
東京オリンピック・パラリンピックは無観客開催で、ほぼメディアを通じての観戦となり、動画配信やSNSを含めたインターネットメディアがより大きな役割を担うことになった。これまでテレビ中継されることが少なかった競技が長時間動画で配信されたり、SNSと連携したキャンペーン企画が展開されるなど、バーチャル世界での体験を広げる契機となった。
2021年9月の日本民間放送連盟の発表では、開催期間中におけるgorin.jpおよびTVerの合計動画再生回数は、前回のリオデジャネイロ大会の2.7倍、7,414万回に達し、リアルタイム動画配信に関しても様々な知見が集積されたという。
総務省が2021年1月に行った「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では、インターネット利用時間が、全世代で拡大し続けていることが示されている。
家庭でのインターネット利用のきっかけとなったWindows95のリリースから四半世紀を経て、現役時代にインターネットで業務を行っていた世代が、デジタルリテラシーをもったシニア層を形成し始めている。コロナ禍においてECの利用や家族や友人とのコミュニケーション、インターネット上で行政手続きなどをする必要が増えたこと、菅義偉政権において携帯料金の引き下げ政策が推進され、携帯キャリアが3G停波を前にシニア世代を対象にしたスマートフォン乗り換えキャンペーンを展開したことなどを背景に、シニア層へのスマートフォン普及が広がっている。デジタルリテラシーの低い人々のインターネット利用を前提として、ビジネスモデル、安心・安全な利用環境の両面から、インターネット広告のあり方を考えていくことが求められている。
1.2. 顕在化する様々な課題と取り組みの進展
インターネット利用が全世代で拡大すると同時に、インターネット上の不正や犯罪行為による消費者被害も増加している。日本広告審査機構(JARO)に寄せられる苦情件数を見ても、2019年にインターネットがテレビを抜き第1位となって以降増加傾向にある。消費者庁は2021年6月にアフィリエイトに対する規制の検討を開始、2022年2月の報告書では依頼主がアフィリエイトコンテンツに責任を持つことを求める内容になっている。2021年8月には、改正薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)が施行し、虚偽・誇大広告に対する課徴金制度が導入された。いずれもインターネット上の虚偽・誇大広告に対する規制強化を目指したものであり、行政の監視もインターネットが中心になってきたことを示している。
2021年3月にはインターネット広告の品質向上を目指し、デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)が、日本アドバタイザーズ協会(JAA)、日本広告業協会(JAAA)、JIAAによって設立された。「アドフラウドを含む無効トラフィックの除外」と「広告掲載先品質に伴うブランドセーフティの確保」の業務プロセス認証が開始され、11月から品質認証事業者が発表されている。
自由で開かれたインターネットの世界で生み出された新しい技術やサービスが、コロナ禍においても人々の生活を支え、便利にしていることは言うまでもない。同時に急速なデジタルシフトに伴って顕在化する様々な課題には、公的なルールやそれにともなう一定の制約も必要との認識が広がり、具体的な取り組みが始まった。
2. 2021年のインターネット広告市場
2.1. 2021年日本の広告費
電通が2022年2月に発表した「2021年 日本の広告費」において、総広告費は6兆7,998億円(前年比110.4%)となった。2020年の6兆1,594億円(前年比88.8%)から大きく回復したものの、コロナ禍以前の水準には届いていない。媒体別では、インターネット広告費が2兆7,052億円(前年比121.4%)、マスコミ四媒体広告費が2兆4,538億円(前年比108.9%)となり、前年を上回った。電通は、2020年に比べて景況感が回復し、消費者心理も改善したこと、東京オリンピック・パラリンピックの開催が全体的な広告需要の回復を支えたと分析している。インターネット広告費は、一昨年の2020年にコロナ禍で社会経済活動が大きく停滞した中でも、5.9%成長した。その結果として総広告費におけるシェアは拡大、マスコミ四媒体合計と拮抗する水準となった。2021年も社会全体のデジタルシフトを背景にインターネット広告費は力強い成長を続け、マスコミ四媒体広告費を約2500億円上回り、総広告費におけるシェアは39.8%に達した。名実ともに日本の広告活動の中核を担う存在になっている。
インターネット広告費の内訳を見ると、マスコミ四媒体由来のインターネット広告費が1,061億円(前年比132.1%)となった。構成比では、雑誌由来が54.7%、テレビ由来が23.9%、新聞由来が20.1%、ラジオ由来が1.3%となっており、引き続き雑誌分野のデジタル対応が進んでいることが示されている。また、TVerの広告枠の販売開始によってテレビコンテンツの動画広告市場が拡大期に入り、ABEMAや各局のサービスなどを含めたテレビメディア関連広告費は249億円(前年比146.5%)と大幅に増加した。
物販系ECプラットフォーム広告費も、ECの利用者数、利用頻度が拡大を続けたこと、実際のEC購入などの販促活動につながることへの評価が高まり1,631億円(前年比123.5%)と成長を続けている。
広告種別では、動画広告(インストリーム、アウトストリーム合計)市場は5,128億円(前年比132.8%)となり、5,000億円の大台を突破した。2022年にも20%成長となり、市場規模は6,178億円程度になると予測されている。動画広告費だけでテレビ広告の1/3の規模に匹敵することになる。
ソーシャル広告も高成長を続け、7,640億円(前年比134.3%)となりインターネット広告費の28.2%を占める存在になっている。この伸びを牽引するのが動画共有型のソーシャルメディアである。今後のインターネット広告ビジネスでは、動画分野への取り組みがますます重要になってくることを示している。
2.2. 会員社からみた2021年のインターネット広告市場
会員各社のインタビューにおいては、2021年のインターネット広告市場に関して、メディア、プラットフォーム、広告会社を問わず、成長が続いていることを裏付けるコメントが多く聞かれた。「2020年後半からの勢いが持続した1年」、「広告機会としての動画広告への注目が高まっているが、検索、ディスプレイも伸びているので、動画広告に置き換わっているのではなく、全体として伸びている」、「新型コロナ感染症の流行状況が売上全体の方向感に影響することは少なくなった」など、コロナ禍2年目に入り、日本経済全体が停滞を続けている中でも、インターネット広告市場全体は堅調に推移したという認識で一致している。業種別には、コロナ禍における半導体供給逼迫と世界に広がるサプライチェーンの混乱の影響を受けた自動車メーカーからの出稿減少や、感染拡大期における断続的な行動制限によって、運輸・観光、飲食関連、化粧品などの出稿は、「2020年の水準は超えてきているものの、引き続き回復が遅れている」との声もある。しかしながら、社会全体のデジタルシフトの拡大が、広告活動全体のデジタルシフトにつながっていること、オンライン型エンターテインメントやECなどの巣ごもり需要関連業種と中小企業のSNSコマース利用などの裾野の広がりが、不調業種を補って、市場拡大を牽引しているとみられている。また、2020年10月に衆議院議員総選挙が実施されたことに加え、国の行政機関や地方自治体なども、SNSやインターネット広告利用を増加させている。公的機関がインターネット上での公共サービス提供と利用の拡大に向けて取り組みを強化していることが背景にある。「機動的に公益広報活動を行うことができること」に加えて、「メディア、プラットフォームがブランドセーフティや地域ターゲティング機能を向上させていることで、地方自治体や公共機関もさらに使いやすくなった」という声もある。
また、東京オリンピック・パラリンピックにおけるスポンサーの広告キャンペーンについては、「無観客開催になったことで事前に計画していたチケットキャンペーンが中止となった」、「直前まで開催方式が決まらなかったことで、出稿計画の度重なる変更を迫られた」などの諸問題もあったものの、「特設ページのPVは好調」、「動画サービスにおけるユーザーの増加」や「インターネットならではの日本人選手の活躍に合わせた機動的なキャンペーンが実施できた」などの声があった。オリンピック関連事業を手掛けた会員社では、1年遅れかつ制約が大きかった中でも、一定の手応えがあったとの評価があるようだ。
2.3. テレビと拮抗するリーチ
3.1. DXの進展とインターネット広告ビジネスの変化
3.2. メディア化する流通・サービス業
3.3. 拡大を続けるEC広告
3.4. 販売力を強化するマスメディア企業
4. 引き続き動画広告が市場を牽引
4.1. 動画によるコミュニケーションの拡大
4.2. コネクテッドTVの普及拡大進む
4.3. 広告メディアとしてのコネクテッドTV
4.4. テレビCMと動画広告のプランニング一体化が進展
4.5. 動画広告クリエイティブのDX
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