2021.08.20

一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会

日本インタラクティブ広告協会(以下、JIAA)は、「プラットフォームサービスに関する研究会 中間とりまとめ(案)」に関して、インターネット広告ビジネスに携わる事業者(プラットフォーム事業者を含む)の業界団体として、インターネット広告掲載・配信におけるガイドライン等による自主的な取組を行っている立場から、以下の意見を申し述べます。

1.第1部 第1章 誹謗中傷への対応に関する現状と課題

インターネット広告における透明性の確保や広告活動の適正性の確保は、広告主を含む全ての広告関係者が各々の立場で必要な対応に努めるべきものである。

  • 広告の透明性に関して、広告であることの明示及び広告主体者の明示は、従来、JIAA広告掲載基準ガイドラインに標準ルールとして定めている。広告であることの明示は主に媒体側が行うものであり、広告主体者の明示は主に広告主側がクリエイティブ上で行うものである。いずれも媒体面に広告を配信するプラットフォームの仕様・機能として行う場合もあるが、そうでない場合もある点に留意し、広告の仕様やプラットフォームサービスの特性を踏まえて、誰が明示すべきであるかを判断する必要がある。
  • なお、広告表示にどのような情報が用いられたかをユーザーに開示することは、大規模プラットフォーム事業者では行われているケースがあるが、中小規模のプラットフォーム事業者では実装における技術面、コスト面を考慮すると困難であるため、業界標準ルールとはしておらず、任意の対応である。

2.第1部 第2章 偽情報への対応に関する現状と課題

違法・有害情報サイト等への広告配信の抑制については、業界ガイドラインの取組に加えて、すでに官民連携・業界横断での取組を実施しており、その効果も確認されている。誹謗中傷・偽情報に関しても同様の枠組みの構築により不適切なサイト等への広告配信の抑制に対応できると考えられ、行政や相談機関等と業界団体・事業者とが連携した可能かつ適切な取組の検討が望まれる。

  • 広告配信先として不適切なサイトの除外に関する業界標準ルールは、JIAA広告掲載先の品質確保に関するガイドライン(ブランドセーフティガイドライン)に定めており、そのガイドラインの取組を可視化するJICDAQ(デジタル広告品質認証機構)の取組が、広告主を含めた業界全体の枠組みで開始されている。
  • ただし、個々の広告プラットフォームが広告配信先になり得る多様で膨大なすべてのサイトのコンテンツの質を評価(レーティング)したり、ファクトチェックをしたり、権利の有無を確認したりすることは困難である。また、二次的なコンテンツ利用が許諾・許容されている場合もあり、既存メディアでも真実であるかどうか疑わしい情報がエンターテインメントとして成立している場合もあるなど、広告プラットフォーム側が外形的に一律の判断を適用することも難しく、一方的な判断は表現の自由やコンテンツの享受を妨げかねない懸念がある。
  • 一方、業界における広告掲載先の適切性確保の取組として、違法・有害情報を掲載していると認められるサイトの情報は警察庁インターネット・ホットラインセンター(IHC)から、著作権侵害サイト・アプリに関する情報についてはコンテンツ海外流通促進機構(CODA)からそれぞれリスト提供を受け、広告プラットフォーム事業者やベリフィケーションツールベンダー等がブロックリストやパトロールに活用している。このような官民連携・業界横断の取組が最も有効であり、強制力はなくとも実質的な効果が確認されている。なお、両リストの利用は、JIAAガイドライン項目(推奨)であるとともにJICDAQ認証基準項目(義務)となっている。
  • また、大手広告主では広告配信先の安全性確保のため、自らベリフィケーションツールを活用する対策も一般的になってきている。さらに、JICDAQの認証を取得した事業者(認証の発行は今秋開始予定)にのみ発注することによる安全性向上への期待も高まっているところである。

 

広告内容の適法・適正性の確保は、広告主体者たる広告主自らの責任において実施されることが、インターネット広告を含めテレビ広告や新聞広告、雑誌広告等すべての広告に共通する原則である。政治広告についても、日本においては公職選挙法により選挙運動にあたらない表現のみ可能であるが、広告の責任の所在は広告実施の主体である政党等の広告主にあるという原則に変わりはないことに留意が必要である。

  • 広告出稿内容に関する制限については、JIAA広告倫理綱領や広告掲載基準ガイドラインを踏まえて、媒体社やプラットフォーム事業者等がそれぞれに基準を設けており、その基準に即して掲載可否判断を行っている。ただし、原則として、テレビや新聞、雑誌その他どのようなメディアに掲載される広告においても、広告内容の責任は広告主にあるものである。景品表示法等の広告諸法規においても第一義的に広告主に責任があるものとされており、業法による広告規制や広告主の業界において公正競争規約や広告自主基準が定められている。本来、広告活動の主体である広告主が自ら基準を持って広告内容を決定するものであり、その内容に責任を持つべきものである。
  • 政党等の政治活動に関するインターネット広告については、日本においては選挙運動の広告(投票や支持を呼びかける広告)は公職選挙法で禁止されており、選挙運動にあたらない表現のみが可能とされている。先述のとおり、政治広告は広告活動の主体である政党等の責任において行われるものであり、政党等が有料で出稿するインターネット広告においても同様である。すなわち、広告出稿内容の決定やターゲット設定等は広告主側が行うものであり、プラットフォーム事業者にのみ透明性やアカウンタビリティ確保を要求することは、本来的な広告規制の在り方からすると妥当性を欠くものと考える。
  • また、広告を出稿するにあたり、ターゲティング配信の機能を利用してどのようなターゲットに対して広告を届けるかを選択するのは広告主である。ターゲティングの自主規制は、プラットフォーム側がどのようなセグメントを利用可能とするかというルールだけではなく、本来は、広告主側において社会通念上どのようなターゲティングが許容されるかを考慮して実施されるべきものである。
  • ただし、プラットフォーム事業者においては、利用者情報を利用したターゲティング配信において、自動的に個人が分類され広告の出し分けをされることで権利利益の侵害が生じることのないよう、自ら配慮したサービスの設計・改善をする必要があることは指摘のとおりである。プラットフォーム事業者では、差別や偏見等の不利益が生じないよう、個人的な政治的信条その他個人のプライバシーに配慮が必要な情報に基づくターゲティングを制限している。また、その制限項目を広告ポリシーとして公表したり、広告主等のサービス利用者に規約として提示したり、社内規定として技術的対応も含め運用したりしている。

3.第1部 第3章 今後の取組の方向性

以上1及び2で述べたとおり、偽情報の広告や偽情報を掲載するサイトへの広告配信の問題への対応に関しては、個々のプラットフォーム事業者の透明性やアカウンタビリティ確保等の取組や、プラットフォーム事業者への行政のモニタリングだけで解決する問題ではない。偽情報を発信する発信者への適切な対応が目的であることを第一に考え、官民連携や業界横断での情報共有やその情報を活用した具体的対策など、実質的かつ有効な取組について検討を行うことが必要であると考える。

4.第2部 第1章 プラットフォームサービスに係る利用者情報を巡る現状と課題

利用者の利便性と通信の秘密やプライバシー保護とのバランスを考慮し、利用者が安心してインターネットを通じたサービスを利用できるよう、関係する事業者それぞれが利用者情報の適切な取扱いを確保することの重要性は指摘のとおりである。ただし、利用者情報の取得・利用はプラットフォーム事業者のみが行うものではないこと、また、取得する情報は広告利用やターゲティングのみを目的としているものではないことに留意が必要である。

  • プラットフォーム事業者や、媒体社や広告主等のサイト等運営者は、広告利用だけを目的として利用者情報を取得しているのではない。コンテンツやツール等の様々なサービスのためにも利用者情報を取得しており、複数の利用目的(広告利用も含まれる)で取得した利用者情報を一連のデータとして管理・利用している場合もあることに留意すべきである。
  • Cookieや広告IDやデバイス情報の広告における利用はターゲティングのためだけでなく、フリークエンシーコントロール、広告主へのレポーティング、広告効果測定、アドフラウド対策、デバイスや通信環境に合わせた表示の最適化等のためにも利用している。ブラウザやOSで利用制限が行われつつあるCookieや広告ID等の代替技術を用いる背景には、これらの特定の個人の識別を必要としない基本的なビジネス上の必要があることに留意すべきである。なお、ターゲティングを含む広告配信においても、特定の個人の識別は必要としておらず、ブラウザや端末を識別して広告を出し分けているに過ぎない。
  • 少なくともJIAA会員の媒体社やプラットフォーム事業者等は、ターゲティング広告での利用者情報の取扱いにおいて透明性確保とオプトアウト提供を原則とした業界自主ガイドラインを遵守している。ただし、多数の広告配信事業者が連携していることによって広告配信経路が複雑になっていることや、様々なソリューションの登場や広告配信以外での利用も含めて取扱いが多様化していることなどから、実態が分かりにくくなっている現状がある。そのような分かりにくさによって生じている利用者の不安や不信感を払拭するための取組が、最も必要とされることであると認識している。
  • 一方で、実態を十分に理解しないままに不安を煽る報道や言説も散見され、日本の法制度と海外の法規制とのギャップも相まって、利用者情報の取扱いに対して躊躇や萎縮も見られる。例えば、GDPRにおいては同意の在り方について、解釈の理由の詳細な説明とともに具体例を例示したガイドラインが公表されている。GDPRの対象事業者はそれを踏まえてサービス設計を行っているが、日本ではこれから改正個人情報保護法の個人関連情報の取扱いにおける同意の在り方等を整理していく段階にある。また、GDPRに準拠するために海外で標準化の議論が進むフレームワークや新たなIDソリューションの在り方が、個人情報保護法による規律やJIAAガイドライン等の原則に照らして日本においても適切に機能し得るのかどうか、可能性の判断は現時点では定まっていない。そのような過渡期において、開発当事者以外のあいまいな情報や憶測をもとにして検討を誤ることのないよう留意をお願いしたい。

5.第2部 第2章 プラットフォーム事業者等による利用者情報の取扱いのモニタリング結果

モニタリング結果にも表れているとおり、各プラットフォーム事業者におけるデータの取扱いは各々異なり、外部からは同じようなサービスに見えても、内部での取扱いが異なることに留意が必要である。プラットフォームサービスが取得・保有するデータの種類や特性、広告サービスにおけるデータの取扱いの仕様等は、事業者によって様々である。プラットフォームサービスとして一括りに捉えるのではなく、個々の実態を把握したうえで個別に判断することが必要である。

6.第2部 第3章 今後の取組の方向性

以上4及び5で述べたような状況から、JIAAでは、プラットフォーム事業者等の広告サービスにおける利用者情報の適法・適正な取扱いについて、改正個人情報保護法の個人関連情報に関する新たな規律への対応やグローバルでの動向も踏まえ、更なる検討を進めているところである。広告ビジネスを取り巻く技術動向も日々変化している。今後の施策の取りまとめにあたっては、ヒアリング等により最新動向や実態を十分に把握したうえで検討を進めていただきたい。

7.おわりに

プラットフォーム事業者を含め適正なインターネット広告ビジネスを推進する事業者は、規模の大中小にかかわらず、公正な競争の中で利用者にとってよりよいサービスの開発・提供を目指している。そのような事業者のイノベーションを活かし、業界及び事業者の自主的取組の支援となるような政策の方向性が示されることを期待する。

以上